姿勢推定を使えば、ふつうの動画から直接、動きを計測できます。しかしモデルは数多くあり、キネマティクス解析では姿勢推定の精度がとても重要です。では、実際にどれを使うべきなのでしょうか。本検証研究(上の動画で要約)では、代表的な6つの姿勢推定モデルとバリアントを、マーカー式の基準システムと直接比較し、その精度を検証しました。
目次
6つのモデル
速度と精度のスペクトルにわたる6つのモデル/バリアントを比較しました:MediaPipe、MeTRAbs Small、MeTRAbs X-Large、YOLO(YOLOv8-pose)、MoveNet Lightning、MoveNet Thunder。いずれも画像から身体のランドマークを検出しますが、アーキテクチャ、出力(2Dか3Dか)、処理速度が異なります。

検証の方法
5名の被験者が、それぞれ5種目——スクワット、スクワットジャンプ、カウンタームーブメントジャンプ、歩行、ジョギング——を実施。これを、姿勢推定モデルに入力する12台の通常RGBカメラと、基準となる10台のVICON赤外線カメラで同時に撮影しました。各カメラの映像を校正・三角測量して関節を3Dで再構成し、各モデルの股関節と膝の関節角度をVICONと比較しました。

姿勢推定の精度:はっきり2つに分かれた
モデルははっきり2つの層に分かれました。MediaPipe、MeTRAbs Small、MeTRAbs X-Large は約9度の誤差にとどまり、先行研究と同程度でした。一方、YOLO、MoveNet Lightning、MoveNet Thunder は歩行とジョギングで10度を超え、特に膝で差が大きく、ジョギングでは両グループの差が最大でおよそ13〜16度に達しました。
Bland-Altman 解析では、すべてのモデルが角度をわずかに過大評価しており、その偏りは+4.5度(MoveNet Thunder)から+6.6度(YOLO)の範囲でした。MeTRAbs は一致限界が最も狭く——つまり可動域全体でゴールドスタンダードと最も安定して一致していました。全体で最も誤差が大きかったのは YOLO です。

誤差の要因は?
三元配置の反復測定ANOVAでは、モデルと種目は誤差に有意に影響しましたが(いずれも p < .001)、関節の種類は影響しませんでした(p = .301)。種目ではスクワットが最も計測しやすく、歩行が最も難しい結果に——モデルはゆっくりした制御された動作にはよく適合するものの、速く動的な動作は苦手であることを示唆します。このモデル×種目の交互作用が要点で、「最良の」モデルは何を測るかで変わるのです。

どのモデルを使うべきか
- MediaPipe — 総合的に最良で、開発も最も容易。多くの用途で無難な既定の選択肢。
- MeTRAbs(Small / X-Large) — 安定して一貫した3Dが必要なとき。基準との一致が最も狭かった。
- YOLO / MoveNet — スクワットのような静的・低速の動作には十分だが、速いランニングには不向き。特に YOLO はファインチューニングで改善の余地がある。
重要な注意点:被験者は5名のみで統計的検出力が限られており、事後比較の多くは有意になりませんでした。確定的なランキングではなく、条件に応じた推奨として受け取ってください。
姿勢推定の精度が活きる場面
マーカーレスの姿勢推定は、反射マーカーもモーションキャプチャスーツも使わず、ふつうの動画から関節角度を計測できます。ラボ設備の何分の一かのコストで済むため、コーチング、リハビリテーション、バイオメカニクス研究へと急速に広がっています。スマートフォンで撮った選手の映像からキネマティクスが得られるのは、大きな変化です。ただしその数値の価値は、土台となる姿勢推定の精度に完全に依存します。膝で10度の誤差があれば、意味のある知見なのか単なるノイズなのかが変わってしまいます。本研究は、判断の土台にする前に、対象とする動作で選んだモデルが実際にどれだけ正確かを確認すべきことを示しています。
よくある質問(FAQ)
マーカーレスの姿勢推定の精度は、VICONと比べてどの程度ですか?
本研究では、最も優れたMediaPipeと2つのMeTRAbsが股関節・膝の角度で約9度の誤差にとどまり、先行研究と同程度でした。一方、YOLOとMoveNetは歩行・ジョギングで10度を超えました。つまり姿勢推定の精度は、モデルによって「多くの用途で十分」から「速い動作には粗すぎる」まで幅があります。
スポーツ動作の解析にはどのモデルが最適ですか?
下肢の動的な動作では、総合的な精度でMediaPipe、安定した3D出力でMeTRAbsが有力です。YOLOやMoveNetは、スクワットのような低速・静的な課題向けと考えるとよいでしょう。
なぜランニングはスクワットより精度が下がるのですか?
速く動的な動作はモーションブラーや急な関節角度変化を伴い、モデルが追従しにくくなります。スクワットはゆっくり制御された動作のためどのモデルも安定して計測でき、ジョギングで両群の差が最も大きく、特に膝で顕著でした。
姿勢推定の精度を高めるにはどうすればよいですか?
カメラの台数と配置、丁寧な校正、正確な三角測量がいずれも有効です。YOLOのようなモデルは、既製のまま使うのではなく競技特化のデータでファインチューニングすることで、誤差を減らせる余地が明確にあります。
まとめ
万能の「最良」モデルは存在しません——解析したい動きに合わせてモデルを選ぶことです。下肢の動的なキネマティクスなら MediaPipe と MeTRAbs が無難で、YOLO と MoveNet は単純な課題に便利。それぞれがどこで崩れるか、そしてどれだけの姿勢推定の精度が必要かを知っておくことが、数値を信頼するための鍵です。より大きな文脈は、姿勢推定とマーカー式モーションキャプチャの比較もご覧ください。
論文(オープンアクセス)はこちら:Fukushima, T., Blauberger, P., Guedes Russomanno, T., & Lames, M. (2025). Comparison of different pose estimation models for lower-body kinematics: A validation study. Scientific Journal of Sport and Performance, 5(2), 253–268. https://doi.org/10.55860/XWJL7156 (CC BY-NC-SA 4.0)
福島 崇史 — Sports Science & Pose Estimation.
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