AIはゴールドスタンダードに並べるか? 姿勢推定 vs マーカー式モーションキャプチャ

選手の動きを、マーカーもワイヤーも高価なラボもなしに、正確に計測するにはどうすればいいのか。それが、この検証研究の出発点です。上の動画と本記事でその要点をまとめます。問いはシンプルですが、答えるのは簡単ではありません——マーカーレスの姿勢推定(Human Pose Estimation)は、スポーツにおけるモーションキャプチャのゴールドスタンダードに、本当に置き換えられるのでしょうか。

ゴールドスタンダードと、その代償

長年、キネマティクス解析の基準とされてきたのはマーカー式モーションキャプチャです。体に貼った数十個の反射マーカー、赤外線カメラの並ぶ空間、そして管理されたラボ(VICONなどのシステム)。実際に高精度で——だからこそ新しい手法の検証基準に使われます——しかし、セットアップに手間がかかり、高価で、そして実際の試合では使えません。選手にマーカーを貼ることはできないからです。

マーカー式モーションキャプチャ:高精度だが、手間・費用がかかりラボが前提。
マーカー式モーションキャプチャ:高精度だが、手間・費用がかかりラボが前提。

マーカーレスの姿勢推定

姿勢推定は、この流れをくつがえします。AIモデルが、ふつうの動画から体の関節を直接検出するのです。マーカーもラボも不要、カメラ1台で十分。計測は安価・高速になり、ほぼどこでも行えます——本当のパフォーマンスはラボではなく実際の試合で起きるので、これは重要です。残る問いは精度。マーカーレスは、マーカー式のゴールドスタンダードにどこまで近づけるのでしょうか。

マーカーレスの姿勢推定:AIがふつうの動画から体の関節を直接検出する。
マーカーレスの姿勢推定:AIがふつうの動画から体の関節を直接検出する。

研究の内容

それを確かめるため、5名の被験者に2種類の動作——アスレチック動作とスポーツ動作——を行ってもらいました。ふつうのカメラ(姿勢推定用)と、基準となる赤外線マーカー式システムで同時に撮影し、肘・肩・股関節・膝の4関節について、それぞれの手法が計測した関節角度を比較しました。

研究の設定:被験者5名、通常カメラ対 赤外線マーカー式(基準)、肘・肩・股関節・膝を比較。
研究の設定:被験者5名、通常カメラ対 赤外線マーカー式(基準)、肘・肩・股関節・膝を比較。

結果:およそ10度

全体として、姿勢推定とゴールドスタンダードの平均差はおよそ10度でした。アスレチック動作で9.7° ± 4.7°、スポーツ動作で9.0° ± 3.3°。差が最も大きかったのはで、股関節と膝は比較的近い値でした。

10度という差は、目視の比較ではほとんど分かりません。しかし臨床レベルの精度としては大きすぎます。つまり、その誤差が問題になるかどうかは、用途しだいなのです。

結果:関節角度の平均差はおよそ10°(アスレチック9.7°、スポーツ9.0°)。差が最も大きいのは肘。
結果:関節角度の平均差はおよそ10°(アスレチック9.7°、スポーツ9.0°)。差が最も大きいのは肘。

誤差はどこから来るのか

  • オクルージョン — モデルはカメラに映るものしか分からない。体の陰に隠れた四肢は推測するしかありません。
  • 学習データ — 対象の動作がモデルの学習データに十分含まれていないと、検出はうまくいきません。
  • 系統的な差 — これが厄介です。マーカー式は皮膚上のマーカーを追跡し、人体計測から関節中心を推定します(間接的な計測)。一方、姿勢推定は画像から関節中心を直接検出します。両者は本質的に異なるものを測っているため、一定のオフセットが生じ、それが平均誤差を押し上げます——この理由で、論文が姿勢推定の誤差を過大に評価してしまうこともあるのです。

まとめ

臨床レベルの精度が必要な場面では、マーカーレスの姿勢推定はまだマーカー式の完全な代替にはなりません。しかし、厳密な精度が求められない場面——スクリーニング、コーチングのフィードバック、大規模な計測や試合中の解析——では、すでに実用的な価値があります。まさに、マーカー式が入り込めない領域です。改善の余地はありますが、その可能性は明確です。

論文(オープンアクセス)はこちら:Fukushima, T., Blauberger, P., Guedes Russomanno, T., & Lames, M. (2024). The potential of human pose estimation for motion capture in sports: a validation study. Sports Engineering, 27(1), 19. https://doi.org/10.1007/s12283-024-00460-w


福島 崇史 — Sports Science & Pose Estimation.
YouTubeでチャンネル登録  ·  ウェブサイト  ·  ORCID  ·  お問い合わせ

上部へスクロール